小林 結

美しいもの

2014.04.23

昨秋、初めてルーブル美術館を訪れた際。ここを左に曲がればあの「モナリザ」が展示されている部屋、という場所に着いた時に、ふとその場所の温度が変わったような気がして思わず立ち止まりました。

何かの気配を感じて右を向き、掲げられた絵画に吸い寄せられるようにして出会ったのが、ポール・ドラロッシュの「若き殉教者の娘」でした。

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どこを見ても教科書に載っているような有名な絵画と彫刻がひしめく中で、その喧噪さえ忘れさせるような静謐さと穏やかな気品を湛えたその作品は、モナリザを見終わって、再度足を運んだほど印象的でした。

そして、ルーブルを出て食事をしながら思ったのは、「あの作品はF=X ピヒラーのワインに似ているのだ」という事。

背景の色がラベルと同じような緑である、という事ではなく、香りや味わいの、まるで攻撃性の無い、哲学的な(もしくは宗教的な)ある種の諦念を感じさせる部分が共通項だったのかもしれません。諦念というと諦めるという字が入りますが、それは絶望する事では無く、先が見えない程長い道のりの彼方に絶対的な希望を持っている人特有の優しさとでも言うのか。

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美意識を突き詰めた作品は、音楽や美術だけではなく、料理やワインなどでも人の心を波立たせるものですね。今回は、最近出会った美しい事を中心にご紹介したいと思います。

先月、久しぶりに春の時期にフランスを訪れてワイナリーを中心に巡ってまいりました。ボルドーとブルゴーニュに行った後に、ドイツに飛ぶという強行日程で、移動日含め10日ほど連休をいただいての旅行だったのですが、東京にはない美しい風景にたくさん出会えたのは、とても大きな喜びでした。

強行日程であるということは、朝が早くて夜が遅いということです。まだ夜も明けきらぬうちから起きだして移動、が毎日の事でした。今回はどうもレストランでの食事が当たらなかったため、電線に邪魔されない広い空の朝焼けや、ブドウ畑の向こうに広がる蒼穹、降るような星空は、数多くのテイスティングや慣れない宿のベッドで休まりきらない体を慰めてくれる素晴らしい要素でした。

中でも、ラマルクのフェリー港から見た朝のジロンド河の光景は本当に清らかで美しいものでした。

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ボルドーの右岸と左岸を行き来するには、ふつうは橋を使うのですが、隅田川ほど頻繁に橋が架かっておらず、遠回りを強いられることが多いのです。そのため、生活手段としてのフェリーが住民たちに愛用されています。しかし、地元民割引制度があるのか、前に並んでいたフランス人達の利用料金が私達の半額だったのです。パスを見せるわけでもなく、未だに解せない…。

小さい話ですみません。

そして、ブルゴーニュに移動。グランジュール開催中でしたので、あちこちにブルゴーニュの旗がはためいていて、見ている分には気持ちがいいのですが、写真に撮ろうと思うと大変でした。ひたすらシャッターを押し続け、ほぼ捨てました。ベストショットが下の写真です。

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晴れた日の夕方、メルキュレで一番の畑をバックにひらめくブルゴーニュ公国の旗は、なんともノスタルジックな色合いで、ほのぼのさせられました。フランス王家と渡り合える(もしくは上回る)ほどの力を持った貴族だったブルゴーニュ公。彼らが歴史の主役だった時代にも、こんなふうにブドウ畑は存在したのだろうと考えながら、しばし美しい空に見入っていたのでした。

さて、今回の旅行のドタバタは書く尽くせないほどあるのですが、美しくはないので省かせていただきます。

所変わって、東京某所。美意識を塊にしたらこんな感じという、非常に素晴らしいお店に行ってまいりました。昼も夜も一組ずつしか予約は受けず、和洋折衷の繊細なお料理をいただけるお店です。ちなみに二ヶ月待ちました。私が威張ることではないのですが、予約の取れない人気店なんです!

お料理も器も素晴らしいことこの上なく、江戸時代や室町時代の伊万里のお皿や大正時代のガラスを模したものに季節のお花を絵付けしたグラス。

 

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大正時代に作られたもののように薄い黄色の色目ガラスではあるものの、その薄さはまさしく現代のもの。その上に絵付けされた本当に春らしい繊細なお花に一同ため息を漏らしながら、オーナーが「ガラスに絵付けするのは、裏からも見えてしまうのでとても難しい」と聞いて、皆、納得しながらも裏返して確認。裏から見ても綺麗でした、さすがです。

そのお店に行く途中に見つけた芍薬も珍しい色合いでとても美しく、これから食事に行くというのに本気で買っていこうか悩みました。現在、スマホが壊れており代替機なので、さらに写真のクオリティが落ちており伝わりづらいのですが、見たことのない非常に鮮やかなオレンジを帯びたピンクで、これは欲しい!と久しぶりに思いました。

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残念ながら毎日の生活は、楽しい事ばかりではありません。ネガティヴな気持ちをリセットするために、好きな物は力を貸してくれます。しかし、漫然と個人の好みで選ぶのではなく、美しいという概念を理解するために、少し感性を研ぎ澄ましておくのも悪くはないでしょう。

先日、読んで感銘を受けた住井すゑさんの「夜あけ朝あけ」。中でもあとがきが素晴らしい。美しいとは、真実とはどういうことか、考えさせられる名文です。ぜひ、ご一読を。

※4月23日に一部のみホームページ上に掲載されましたが、システムの問題で全文ご覧いただけなかったため、再度掲載させていただきました。

 

PICK UP
  • 手をかける事の素晴らしさ
    シャトー キュレ ボン 1998

    8,100円 店頭のみ販売

    サン手ミリオンのシャトーの中でも優良な小規模シャトーであったが、1999年を最後にシャトーカノンに買収され、現在この名前でワインは生産されていない。優良な98年ヴィンテージの特徴最大限活かしきった、繊細で素晴らしい仕上がり。畑に住み込んで世話をするという他にはまねのできない手のかけ方で、その名声を築いたある種伝説的なシャトー。



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PROFILE

小林 結
大学で心理学を学んだのち、レストランソムリエとしてサービスに従事。百貨店の商品統括部でアシスタントバイヤーを経験した後、ワイン専門の卸を経て、2007年より現職。 2011年、ロワール中央地区ワイン委員会より親善大使に任命される。
子供の頃からアレルギー持ちで、アトピー、金属、日光や花粉などのアレルギーは、一通り持っています。この時期は花粉に悩まされますが、 多くの方と違い、肌が荒れるという形で出てくるので、とても面倒です。
去年は飲むエッセンシャルオイルと薬草茶で抑えて、所謂「薬」を飲まずに済んだのですが、今年は気を抜いてサボったために3月初頭からステロイドを使う破目になりました。
しかし、10日ほどヨーロッパに行っていた間は全く症状が出なかったので、原因を断つって、本当に大事なのだと実感しました。 しかし、いくらアレルギーに悪いと言われてもお酒も乳製品も止められないまま今に至ります。
乳製品に含まれるヒスタミンは、非常にアレルギーを悪化させますが、そのヒスタミンがたっぷり入ったチーズを四苦八苦して旅行先から持ち帰るのですから、 業が深いとしか言えません。とても美味しかったので精神は充足されましたが。皆様はどうか、お気を付け下さいませ。

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